クラウド会計とは、経理業務をはじめバックオフィス業務全体の効率化を図るうえで必要不可欠なものです。
この記事を読んでいる方の中には
「経理業務、法人管理業務を効率化したいけど、どうすればいいかわからない」
「起業したので経理業務を行う必要があるけど、なるべく手間をかけずに自分で行いたい」
「会計ソフトを何にするか迷っているけど、どんなものがあるか知りたい」
といったお悩みを持っている方が多いのではないでしょうか。
そのような方々におすすめしたいのが、この記事で紹介するクラウド会計ソフト。
近年では、私たちのような会計税務の専門家である公認会計士や税理士も、クラウド会計ソフトの利用を前提として業務を行っています。
私が会計税務の仕事をはじめた当初はクラウド会計ソフトが普及していなかったのですが、2013年前後からクラウド会計ソフトの黎明期を迎え、そこから一気に普及して会計業務がどんどん効率化されている状況です。
また、クラウド会計ソフトは他のクラウドサービスとパッケージで提供されており、各サービスを駆使することで会計業務のみではなく会社のバックオフィス業務全体が効率化されます。
この記事では「そもそもクラウド会計ソフトとは何なのか?」からはじまり、クラウド会計ソフトで効率化される業務や、おすすめのクラウド会計ソフトまで私の実体験をまじえ簡潔に解説しています。
クラウド会計ソフトの検討、導入前における基本的な知識を整理することができるので是非読んでください。
クラウド会計ソフトとは?
クラウド会計ソフトとは、端末に会計ソフトをインストールする必要がなく、インターネットのブラウザベースで動作する会計ソフトです。
また、クラウド会計ソフトにおいては、会計帳簿や決算書など会計処理に関する全てのデータもインターネット上に保存されるため、会計業務の全てがインターネット上で完結します。
つまり、インターネット環境とインターネットに接続できる端末があれば、場所や端末を問わず会計業務を行えるのがクラウド会計ソフトです。
ポイント
インターネット環境とインターネットに接続できる端末があれば、場所や端末を問わず会計業務を行うことが可能
例えば「会社のパソコンで経理業務を行って、続きは自宅のパソコンやiPadで~」といった使い方があるように、工夫次第でいくらでも会計業務のやり方を変えることができます。
会計ソフトの歴史を遡ると、インストール型の会計ソフトで、サーバー上にデータを保存するソフトは既に1990年代から一部で使われていました。
その後の2013年頃から今に至るまでfreee、MFクラウド、弥生会計オンラインを中心としてクラウド会計ソフトの普及が広まっています。
なぜ今クラウド会計ソフトが選ばれるのか?その理由を以下で解説していきますので是非参考にしてください。
会計ソフトはいまやクラウド会計ソフト一択
クラウド会計ソフトの具体的メリットについては記事の後半で解説しますが、先ず何よりお伝えしたいことは
「一定の場合を除いて、オススメ会計ソフトはクラウド会計ソフト一択」
ということです。
なぜならば、クラウド会計ソフトを利用することで、いつでもどこでも効率的に会計業務(さらにはバックオフィス業務全般)をこなす事ができるからです。
「一定の場合を除いて~」という言葉が気になりますよね。
なぜそのような言い回しになったかというと、クラウド会計ソフトにも克服するのが難しいデメリットがあり、そのデメリットが発生する条件に該当する場合はクラウド会計ソフトの導入を避けた方が良いためです。
デメリットについては記事の後半でメリットと合わせて解説しますが、ここではクラウド会計ソフトの導入をやめた方が良い条件を列挙します。
こんな場合はクラウド会計ソフトの導入を避けた方が良い
- インターネットを使えない環境にある
- クレジットカード等のキャッシュレス決済、インターネットバンキングの利用がなく、取引は現金取引のみである
- 経理担当者が昔ながらの伝票を打ち込む経理業務しかできない
- 顧問税理士がクラウド会計ソフトに対応していない
インターネットを使った会計ソフトなので、インターネット回線の存在は必要不可欠です。
また、クラウド会計ソフトは取引が現金取引のみの場合、十分にメリットを生かすことができないので注意が必要です。
そしてクラウド会計ソフトの操作画面や操作方法は、従来の会計ソフトと若干異なります。
そのため、長年従来の会計ソフトに慣れ親しんだご年配の経理担当者の方や、税理士先生には抵抗感があると思われます。
実際、私の周りの税理士や会計士に対してクラウド会計ソフトについて感想をきくと、その操作方法に違和感を感じている方がいるのが事実です。
繰り返しになりますが、会計ソフトを選ぶにあたってクラウド会計ソフトはとてもオススメです。
それでは、クラウド会計ソフトをとりまく状況をみてみましょう。
クラウド会計のシェアどんどん伸びている
会計ソフト全体の中で、クラウド会計ソフトのシェアは近年勢いよく増加しています。
クラウド会計ソフトのシェアについて個人事業主と法人、それぞれに分けて見てみましょう。
個人事業主におけるクラウド会計シェア
個人で事業を行っている方々の中で、2021年4月におけるクラウド会計ソフトのシェアを見てみると以下のグラフとなっております。
各年のシェア率の推移からわかるように、増加の一途です。
出典:(株)MM総研
個人事業主においては、規模が小さいため会計帳簿をつけるほど手間をかけず、Excelなどによる集計で済ませてしまい会計ソフトを利用していない方が多くいらっしゃいます。
また、経理担当者を採用している事例は希で、多くの場合は事業主の方が自ら経理業務を行っています。
個人事業主の方はそのような状況もあって、経理を中心とした会計業務にかける時間や労力は限られており、日常的に会計業務効率化の必要性を感じているのがはないでしょうか。
こういった背景もあって、手間なく効率的に会計業務を行うことができるクラウド会計ソフトが個人事業主の方に広がっていると思われます。
法人におけるクラウド会計シェア
法人におけるクラウド会計ソフトのシェアを見てみると以下のようになっています。
出典:(株)MM総研
注:2017年時点
こちらは出典元の調査機関さんの方で統計をとるための調査対象条件に変更があったようで、シェアの推移がでていませんでした。
また、公表されている最新の調査が2017年時点での調査であったため、現在の調査結果がわかりませんでした。
そこで、こちらの2017年時点での情報から、2021年までの各年におけるクラウド会計ソフトのシェアを私の方で計算し推測しました。
計算方法としては、2017年時点で法人におけるクラウド会計ソフトのシェア14.5%という数値に対し、個人事業主におけるクラウド会計ソフトのシェア推移伸び率(各年の前年対比)を用いて各年のシェア率を計算しております。
もはや2022年には法人におけるクラウド会計ソフトのシェアが30%を上回る推測です。
実際、私が行っている税理士・会計士業務の中で感じる感覚としては2021年の時点で既に30%を超えているのではないか~と感じることもあるくらいで違和感がない数値。
特に近年のスタートアップ、ベンチャー企業においてはfreeeとMFクラウドを導入されている企業が圧倒的に多い印象があります。
スタートアップ、ベンチャー企業は、経営者が比較的若くITリテラシーが高い傾向にあり、限られた経営資源の中で高いパフォーマンスを出すため効率化への関心が高いです。
そのような背景もあって、ここ数年の間に設立されたスタートアップ、ベンチャー企業だけに限れば、クラウド会計ソフトの利用率は8割を超えているのではないでしょうか。
クラウド会計ソフトのメリット・デメリット
会計業務は勿論、バックオフィス業務まで効率化することができるクラウド会計ソフトですが、万能ではなくデメリットもあります。
「一定の場合を除いて、オススメ会計ソフトはクラウド会計ソフト一択」のセクションで少し触れたように、利用するためには条件となる環境が整っている必要がある事もデメリットの1つです。
ここでは、クラウド会計ソフトのメリット・デメリットを網羅的に解説します。
一般的に言われるメリット・デメリットに加え、様々な会計ソフトを10年以上使っている私の個人的に感じているメリット・デメリットも挙げますので、ご参考になれば幸いです。
その上で、メリットとデメリットを比較して、デメリットを克服することができる、もしくはデメリットが許容できる範囲内でメリットの方が勝っている場合はクラウド会計ソフトの導入・利用を進めるべきでしょう。
メリット
クラウド会計ソフトのメリットは以下のとおりです。
メリット
- いつでもどこでもデータにアクセスすることができる
- インターネットバンキング、クレジットカードなどの利用データと連携することができる
- 会計処理の自動入力をすることができる
- 会計知識がなくてもある程度は会計処理を進めることができる
- メンバー間でリアルタイム情報の共有ができる
- 給与計算、経費精算、請求書作成など他ののクラウドサービスとデータ連携することができる
- バージョンアップの手間が不要になる
- データバックアップの手間が不要になる
それではそれぞれのメリットについて詳細を解説していきます。
いつでもどこでもデータにアクセスすることができる
「クラウド」という言葉から想像がついていると思いますが、クラウド会計ソフトのデータはクラウド上にあります。
また、会計ソフトそのものもクラウド上にあり、端末にソフトをインストールすることなくインターネットブラウザから操作することができます。
つまり、会計ソフトそのものを端末にインストール不要であるため、パソコンやiPadなどのタブレット端末、さらにはiPhoneなどのスマートフォンでも端末を選ばず、GoogleChrome、Safari、Internet Explorerやスマホアプリを通してインターネット上で会計処理などを行う事ができるのです。
よって、インターネットに接続することができる環境と、インターネットに接続することができる端末さえあれば、ロケーションフリーで業務を行うことができます。
インターネットバンキング、クレジットカードなどの利用データと連携することができる
個人的には、こちらのメリットがクラウド会計で得られる最大のメリットだと思っています。
データ連携とはどのようなものかというと、クラウド会計ソフトが、銀行やクレジットカード会社から利用データを取得してくれることです。
しかもほぼリアルタイムで、それらの情報がクラウド会計ソフトにデータとして入ってきます。
イメージとしては、銀行の通帳に記帳されている内容、クレジットカードの利用明細の内容、それぞれがそのまま会計ソフトにデータとして入ってくるイメージ。
つまり、データ連携することによって、通帳を記帳するために銀行へ行く、通帳や領収書を見て日付・金額・取引内容を手入力する、税理士へ紙媒体の資料を郵送する~といった手間が無くなります。
セキュリティを心配される方もいるかと思いますが、銀行やクレジットカード会社と会計ソフトの連携は、あくまで利用データを取得するAPI連携を行っているだけで、会計ソフトを通して資金移動やクレジットカードの利用をすることはできませんのでご安心下さい。
会計処理の自動入力をすることができる
クラウド会計ソフトは、会計処理を自動で行うことができます。
どのようにして自動化されるか?というと、まず、クラウド会計ソフトをインターネットバンキング、クレジットカードなどの利用データと連携させます。
その上で「連携することで取得した利用データに対して、クラウド会計ソフトがどのような会計処理を行うか」という会計処理のルール設定を行う事で、取引から会計処理まで自動化されます。
ここでいう自動化とは、全く手作業をすることなく日付、金額、会計処理の内容(勘定科目)が自動的にクラウド会計ソフト上に出てくることで、かなりの手間とミスを減らすことができます。
クラウド会計ソフトが登場する前までは、領収書・レシート・通帳等を見て、その内容を手で会計処理を入力していたので大きな違いです。
ここでご注意頂きたいのは、ここでの自動化された処理は必ずしも合っているとは限らないということです。
この点については後ほど次に挙げるメリット
「会計知識がなくてもある程度は会計処理をすすめることができる」
の中で解説します。
会計知識がなくてもある程度は会計処理を進めることができる
前述の「クラウド会計ソフトは会計処理の自動入力ができる」というメリットで「会計処理のルール設定を行う」と解説しましたが、そのルール設定を行う前の段階で、クラウド会計ソフトが独自に会計処理の推測をしてくれます。
この推測は、クラウド会計ソフトのデータセンター上に蓄積された取引から、可能性が高いものを候補として表示してくれている処理です。
よって、その推測に従ってある程度は会計処理を進めることができます。
ここでご注意頂きたいのは、ここで推測された会計処理が、あくまで他社の一般的な事例から推測された処理ということです。
他の会社では合っていても、自社の実態に照らせば間違った処理となってしまうことも多々あります。
これは税理士あるあるで余談なのですが、
「クラウド会計ソフトで会計処理を行っているので、月次では顧問料払いたくないです。決算と申告だけお願いします。」
というお客様が来て、いざ会計処理を拝見すると間違った処理が期中に多く登録されており、決算を仕上げるのに通常以上の手間がかかってしまう~という事例があります。
残念ながら今のところ、ちゃんとした会計知識がないとクラウド会計ソフトがあっても正確な処理はできません。
あくまで会社の会計処理を行う、ましてや会計処理の自動登録で会計業務を効率化することは、会計の専門的な知識があって、初めて達成できるものだとお考え下さい。
会計処理を進める上で効率化のための自動登録ルールを駆使する場合、自動登録ルールの設計を税理士と一緒に行っていくことをおすすめします。
メンバー間でリアルタイム情報の共有ができる
クラウド会計ソフトは、利用者アカウントを増やすだけでログインできる人数を増やすことができます。
よって、クラウド会計ソフト上のデータをリアルタイムにメンバー間で共有することができるので、メンバー間の業務連携やコミュニケーションが一気にスピードアップします。
勿論メンバーによって権限設定を行う事ができるので「○○さんは●●の閲覧ができるが登録はできない」「××さんは●●の閲覧と登録ができる」といった権限管理も可能。
また、メンバーとして顧問税理士や会計士を招待することで、面倒な郵送・メールによる資料やデータのやり取りを無くすることができます。
クラウド会計ソフトが登場する前のインストール型ソフトの時代は、各端末にインストールする分のソフトを買い、その上で端末間でバックアップデータをメールを介して共有していたので、この点だけでも大きな違いです。
給与計算、経費精算、請求書作成など他のクラウドサービスとデータ連携することができる
クラウド会計ソフトは給与計算ソフト、経費精算ソフト、請求書作成ソフトなど、それぞれのデータから会計処理をすることができます。
つまり、各ソフトの情報をクラウド上で一元管理して会計に連動させることで、効率的になバックオフィス業務が実現するのです。
このメリットに関して個人的な感想としては、会社規模が大きくなればなるほど得られるメリットは大きいのですが、会社規模が大ききくなればなるほど導入する際の手間が大変になります。
なぜならば、画一的ではないデータフォーマットが出来上がってしまったり、非効率なその場しのぎの運用方法が組織として浸透してしまったりすると、新しい仕組みに乗せ換えるのに調整必要な物事が多くなるからです。
よって、クラウド会計ソフトを初期から導入することは勿論、それに付随して諸々のバックオフィス業務に関連するソフトも初期からセットで導入することをおすすめします。
近年、企業でERP(Enterprise Resources Planning)の導入が進んでいますが、ERPとは経営資源(ヒト、モノ、カネ)を効果的かつ効率的に活用する概念で、freeeやMFクラウドはまさにERPのパッケージソフトといえるでしょう。
バージョンアップの手間が不要になる
インストール型のソフトではソフト自体のバージョンアップは勿論、OSのバージョンアップ(例えばWindows7からWindows10など)にも対応して、インストールされているソフトのアップデートを行う必要があります。
そのためインストール型のソフトではその都度、ソフトの再ダウンロードと再インストールや、アップデートのためのパッチファイルをダウンロードする手間が発生します。
その点、クラウド会計ソフトであればソフトそのものを端末にインストールしておらず、クラウド上にあるためバージョンアップに対応するために手間が一切かかりません。
よって、知らない間にバージョンアップされて(勿論事前にメール等で連絡が来るのですが)気が付けば便利になってる~なんていうこともあります。
ソフトのバージョンアップはついつい滞りがちになるものです。
会計ソフトにおいては、会計基準の改正による表示方法の変更があった場合、ソフトのアップデートを忘れていると致命的な間違いになる可能性があります。
そのようなリスクを避ける意味でも、バージョンアップの手間がないクラウド会計ソフトは安心して利用することができるのでおすすめです。
データバックアップの手間が不要になる
当然といえば当然ですが、クラウド会計ソフトはデータがクラウド上に保管されます。
よって、以前の会計ソフトのように端末上の会計ソフトからバックアップデータを抽出して、CDロムにバックアップデータを保管する~といった煩わしいバックアップデータの保管をする必要が無くなります。
私自身、インストール型の会計ソフトを利用していた時、会計処理がデジタルデータになっているのにわざわざバックアップデータをCDに移すという手間と物理的に物が増えることに疑問を感じていました。
クラウド会計ソフトであれば、そのような手間もなくデータの保全を行う事ができるので安心です。
中には前述の「クラウド会計ソフトにアクセスできるメンバーを増やせる」ということからデータをバックアップする必要性を感じる方もいるかと思います。
その点に関しては、メンバーの権限設定でデータの管理権限を制限することができるのでご安心ください。
デメリット
クラウド会計ソフトのデメリットは以下のとおりです。
デメリット
- インターネット回線がないと使えない
- 従来の会計ソフトの概念では使いこなせない
- 伝票を大量に直接入力するには不向き
- 月額料金がかかる
- セキュリティレベルを上げるには上位プランの契約が必要
- 結局は会計知識が必要
色々とクラウド会計ソフトのメリットを解説しましたが、勿論デメリットも存在ます。
デメリットも理解したうえで、メリットと比較してクラウド会計の導入を進めて頂ければ幸いです。
それではデメリットについて詳細を解説していきます。
インターネット回線がないと使えない
インターネットブラウザ上で動作するクラウド会計ソフトは、当然ながらインターネットへアクセスすることができる環境になければクラウド会計ソフトを利用することができません。
つまりインターネット回線がなければどうにもならないのです。
この点に関しては、今や「パソコンやiPadなどの端末はあるがインターネット回線につなげられない」という状況が希なため、デメリットと言うほどではないと思いますが念のためデメリットとして挙げました。
個人的にこのデメリットを感じるときは、飛行機の中でインターネット回線が遅い状況にある場合です。
しかし、インストール型の会計ソフトであれば、そのような状況でデータにアクセスすること自体できないので比較にならず「クラウド会計ソフトは不便だな~」と感じることはありません。
従来の会計ソフトの概念では使いこなせない
クラウド会計ソフトは、従前のインストール型会計ソフトとはインターフェイスや操作方法が異なります。
なぜなら、従前のインストール型会計ソフトのように「経理担当者が領収書やレシートを見て伝票入力していく」といった使い方を前提としていないからです。
また、会計ソフト単体で使うのではなく、バックオフィス業務全体を効率化するため設計されたソフトであることからも、クラウド会計ソフトが従来の概念とは違ったソフトといえるでしょう。
特に、メリットのセクションで解説しました会計処理の自動入力などは従来の会計ソフトでは無かった機能です。
よって、昔ながらの経理処理に馴染みがあり「経理業務とは伝票を入力して残高を合わせるものだ~」といった固定観念がある経理担当者の方からすると、大変使いづらい会計ソフトと感じるかもしれません。
確かに私自身、インストール型の会計ソフトを10年近く使っていた経験があったため、クラウド会計ソフトを使い始めた当初は戸惑いがありました。
経理経験者がクラウド会計ソフトを利用すれば、より会計処理の効率性を上げることができますが、当の経理担当者自身の柔軟性やITに関する資質が問われるのは事実だと感じています。
極端な言い方になってしまいますが、どんなにベテランの経理の方であっても、それが手書きで伝票を作成して帳簿をつけていたような方であった場合は要注意です。
その方がITにアレルギー反応を起こす方であれば、クラウド会計ソフトのメリットを十分に得られることはできません。
万能と思われるクラウド会計ソフトではありますが、使い手が十分に機能を引き出せるか否かも重要なのでご注意下さい。
伝票を大量に直接入力するには不向き
従前のインストール型会計ソフトでは、紙の領収書やレシートからいかに早く伝票入力を打ち込めるかが重要な機能でした。
例えば、マウス操作無しでひたすら数字とエンターキーを打ち込むだけで、日付・金額・会計上の科目コード(消耗品費や通信費など)を入れられる機能などです。
なぜなら、そうすることで領収書・レシートを片手でめくりながら、片手で次々と伝票入力をすることができ処理スピードを上げられるからです。
しかしクラウド会計ソフトではどうでしょう。
前述のメリットのように、そもそもクラウド会計ソフトは領収書やレシートから手入力することを前提としていませんので、連続的に伝票を手入力することについて重点を置いていません。
よって、クラウド会計ソフトにおいては、手入力で大量の伝票を入力するには不便に感じるでしょう。
ここで、このデメリットへのフォローとして私の場合をあげておきます。
私の業務の中でも、時として手入力で大量に伝票を入れなければならない状況がありえますが、そのような場合はエクセルを利用します。
具体的には、エクセルに取引を羅列したうえで、そのエクセルをクラウド会計ソフトにインポートします。
そのように会計処理を行う事で、ブラウザで開いているクラウド会計ソフトの画面上で金額や日付を入力する煩わしい作業を避けることができているのです。
このような点からも、クラウド会計ソフトを利用する場合、利用者においてある程度のITスキルがあると良いと言えるでしょう。
月額料金がかかる
当然ながら便利なクラウド会計ソフトは無料ではありません。
インストール型の会計ソフトであれば買い切りで購入時に支払うソフト代を支払うのみで使えますが、クラウド会計ソフトは利用に応じて月額料金が発生します。
つまりクラウド会計ソフトはインストール型の会計ソフトに比べ、初期費用がかからない代わりにランニングコストが発生します。
なぜランニングで料金が発生するかというと、システム利用料の他にサーバー利用に関係したコストとお考え下さい。
クラウド会計ソフトは常にサーバー負荷がかかった状態で稼働しており、具体的にはクラウド会計ソフトがクラウドサーバー上でインターネットバンキングやクレジットカードの利用情報を定期的に取得したり、ユーザーからのアクセスに対応して処理を行ったりしているのです。
また、チャット画面によるサポートデスクなど、サポートサービスも含まれています。
個人的にはバックオフィス業務の効率化が実現して、組織の時間やお金が節約されることのメリットに比べれば、クラウド会計ソフトの料金は非常に安い料金だと感じています。
節約された時間とお金を用いて、クラウド会計ソフトの料金以上の利益を生み出せるはずだと考えているからです。
セキュリティレベルを上げるには上位プランの契約が必要
クラウド会計ソフトのセキュリティは、端末においてウィルス対策が万全であれば一切問題ありません。
ただ、上場を前提としている会社等において、セキュリティレベルをより高くする必要がある場合があります。
具体的手段としては、クラウド会計ソフトにアクセスするIPに制限をかけることで、会社のインターネット回線からしかログインできなくなり、セキュリティレベルを上げる方法です。
このクラウド会計ソフトにIP制限を設けるには、クラウド会計ソフトの上位プランを契約することが必要。
よって、クラウド会計ソフトの利用に関して希に受けるご質問の1つに
「上場を前提としている会社なのですが、freeeやMFクラウドを使っているとセキュリティが問題となりますか?」
というご質問がありますが、そのようなご質問に対しては
「上位プランを契約すれば、セキュリティに関して上場審査上問題となることはありません」
と回答しております。
現に、freee社などは自社の会計ソフトを利用して上場していますし、その他においてもクラウド会計ソフトを用いて上場している会社も多数あります。
昔は「クラウド会計ソフトではセキュリティに問題があって上場できない」と言われたこともあるらしいですが、全く持って問題ないのでご安心下さい。
当然ながら、上位プラン契約しなくても、上場審査を前提としない通常の会社であればセキュリティが問題となることはございません。
結局は会計知識が必要
クラウド会計ソフトのメリットで
「会計知識がなくてもある程度は会計処理を進めることができる」
というメリットをあげ、その中でも解説しましたとおりクラウド会計ソフトは会計処理の推測をしてくれるものの万能ではありません。
よって、結局は会計知識がないと正しい会計処理はできません。
むしろ、決算の際に大変な苦労を味わうことすらあります。
なぜならば、正確な会計処理ができていないのに、クラウド会計ソフトの提案する処理に従って会計処理を進めることで、正確な会計処理ができている気になって間違った処理をどんどん行ってしまうことが多々あるからです。
残念ながら、現在のテクノロジーにおいても正確な会計処理を行うためには、目安として簿記2級以上の知識とある程度の実務経験が必要なのは間違いないでしょう。
とはいえ、顧問税理士の先生で決算をちゃんと締められる体制を整えておけば問題はありません。
決算前の期中においては、顧問税理士先生の方での負担が減る分、専門家ならではのアドバイスに重点を置いた顧問業務をしてもらうような関係がクラウド会計ソフトを利用したベストな体制と言えるでしょう。
クラウド会計を導入すればこんなに会計は楽になる
クラウド会計ソフトを導入することで会計業務は勿論、組織のバックオフィス業務全体を大幅に効率化することが可能です。
色々な会社を見てきました私としてはバックオフィス全体を効率化する第一歩として、先ずは会計業務から効率化するのがオススメです。
そこで、クラウド会計を導入すれば具体的に日々の会計業務がどのように楽になるか解説します。
会計業務の中でも、クラウド会計によって効率化され楽になる業務は色々ありますが、決定的なポイントは2つ。
数字の打ち込み作業からの解放
と
勘定科目登録の手間からの解放
です。
以下、その2つのポイントについて解説しますが、この内容はインストール型の会計ソフトを利用している場合は実現できない、もしくは実現するのに追加料金が大きく発生する内容です。
すでにインストール型の会計ソフトをご利用されている場合、クラウドへの移行をご検討するうえで参考になれば幸いです。
数字の打ち込みからの解放 領収書やレシートから会計伝票の数字を打ち込む手間が減る
クラウド会計を導入することで、紙ベースの領収書やレシートに係れている日付や金額などを見て、その数字をパソコンの会計ソフトに入力する~などの手間が劇的に減らせます。
つまり、会計伝票の数字と日付や相手先を手入力する作業が減らせるのです。
そうすることで会計伝票を作成するという時間が省けたり、単純作業を行うストレスがなくなるだけでなく、そもそも手作業で行っていたことから発生していた入力ミスを無くすことができます。
領収書やレシートから伝票を入力する作業は、やったことがある人なら想像するだけで気が滅入るくらいストレスがかかる作業です。
また、伝票入力のスピードを上げるために早くパソコンのテンキーを打ち込むあまり、数値や桁数を間違えてしまうこともあります。
具体的にどうやってクラウド会計ソフトが数字打ち込みの手作業から解放してくれるかは、クラウド会計ソフトのメリットで解説したメリット「給与計算、経費精算、請求書作成など他のクラウドサービスとデータ連携することができる」の中で解説したとおり。
クラウド会計ソフトが、インターネットバンキングやクレジットカードの利用情報とデータ連携することができるため、初めて可能となった効率化方法と言えます。
勘定科目登録からの解放 会計処理の自動化をすることができる
勘定科目とは、取引について会計処理を行う上で、取引内容を分類する「売上高」や「消耗品費」「旅費交通費」といった分類名のようなものです。
クラウド会計の導入により、取引内容について勘定科目を割り当てて登録する手間が劇的に減らせます。
具体的にどうやってクラウド会計ソフトが勘定科目登録の手作業から解放してくれるかは、クラウド会計ソフトのメリットで解説したメリット「会計処理の自動入力をすることができる」で解説ておりますが、簡単に解説すると以下のとおりです。
まず、クラウド会計ソフトをインターネットバンキング、クレジットカードなどの利用データと連携させます。
この時点で、上記「数字の打ち込みからの解放 領収書やレシートから会計伝票の数字を打ち込む手間が減る」が実現しています。
その上でさらに「連携することで取得した利用データに対して、クラウド会計ソフトがどのような会計処理を行うか」という会計処理のルール設定を行う事で、取引について勘定科目を登録するという会計処理まで自動化されます。
クラウド会計の導入で記帳代行業務は不要になる
記帳代行業務とは、記帳業務(会計処理を行い帳簿を作成すること)を代行する業務で、古くから会計事務所の行う業務とされてきました。
私が以前に税理士として所属していた税理士法人では、記帳代行業務をサービスとして提供しており、手作業でかなりの会計処理が行われていた記憶があります。
今思えば「なんてアナログで非効率的な作業を行っていたんだろう~」という感覚で、記帳業務を行う人の人件費が安いことで成り立っているビジネスモデルです。
このビジネスモデルは、記帳業務の報酬金額が下がり続けている現在において、ブラックな職場になりかねないビジネスモデルといえるでしょう。
また、記帳業務を人力で行われることから非効率で属人性が高く、その品質や仕上がりスピードは担当者次第となってしまいます。
そのため、依頼する側としても100%の満足を得るのは困難な状況でした。
それに対して、前のセクション「クラウド会計を導入すればこんなに会計は楽になる」で解説しましたとおり、クラウド会計をフル活用して記帳業務は、かなりの効率化でき品質を上げる(勿論いきなり高品質にはならず、ある程度の時間が必要ですが)こともできます。
よって、昔から続く記帳代行業務という業務は近い将来無くなるでしょう。
私は記帳代行業務が無くなることが「法人・個人を含め会計帳簿を作成する義務がある事業者」と「会計事務所をはじめとした従来より記帳業務を行っていた事業者」にとって良い結果になると考えており、早く記帳代行業務がなくなることを望んでいます。
クラウド会計ソフトのセキュリティは大丈夫?
結論からいうと、クラウド会計ソフトのセキュリティは全くもって問題なく、大丈夫です。
クラウド会計ソフトにログインするにはパスワードとIDを利用しますが、そのユーザーは管理者のIDからの招待制であり、さらに管理者はユーザーごとの権限を設定することができます。
その上で、各社のクラウド会計ソフトにおいて、上位プランの契約を行うことでログイン時の2段階認証や、ログイン時にインターネット接続する回線のIPアドレスを制限することが可能です。
よって、ログインのIDとパスワードを厳格に管理する限り、クラウド会計ソフトを提供している会社のサーバーそのものがハッキングされてしまわない限り安全と考えて差し支えないでしょう。
その一方で、インストール型の会計ソフトはどうでしょうか。
インストール型の会計ソフトはPCの中にデータがあるとはいえ、PCがウィルスに感染していしまう、PCそのものを盗難されてしまう、PCやソフトへのログインIDとパスワードが悪意ある人に知られてしまう、といったリスクがあります。
よって、それらのリスクがある以上、インストール型の会計ソフトの方がクラウド会計ソフトよりセキュリティが高いとは言えないのではないでしょうか。
むしろ、データがPCに残っておらずクラウド上に保管されており、何かあった場合にはアクセス権限を遮断するなど管理者ユーザーから対策をすることができるため、クラウド会計ソフトの方がセキュリティが高いといえます。
クラウド会計に税理士が対応していなければ?
会計税務の業界で10年以上働いている私自身の肌感覚ですが、クラウド会計を使い来ないしている税理士は、税理士業界全体においては未だ希少な存在です。
なぜならば、税理士にとって「既存のインストール型会計ソフトを利用して安定稼働している業務を止めて、未知なるクラウド会計ソフトを利用して時間をかけて試行錯誤をしながら徐々に効率化していく」という行動は、直近の業務負担を大幅に増やす行動であり、かなりハードルが高いためです。
さらには、クラウド会計ソフトへの移行は税理士の一存ではできず、顧問先と合意が必要であり、両者にとってメリットがあると判断されない限りクラウド会計への移行はおきません。
また、クラウド会計はITの知識や慣れが必要な部分があり、昔ながらの伝票を用いた会計に慣れ親しんだ税理士先生には抵抗感があるようです。
結果として「税理士がクラウド会計に対応していない」という状況は多々あります。
もしそのような状況にありましたら、freeeやMFクラウドに対応しており、ITリテラシーがある若手・中堅の税理士探すことをおすすめします。
おすすめのクラウド会計ソフト
仕事柄、インストール型からクラウド型まで、数々の会計ソフトを利用してきた私が実際に使ったソフトの中から個人的におすすめする会計ソフトをご紹介します。
この記事を読まれている方の中には、個人事業主、法人の両方の方がいらっしゃるため、それぞれ分けて別の記事としてまとめておりますので、そちらを読んで頂ければ幸いです。
まず、個人事業主におすすめのクラウド会計ソフトは、「個人事業主におすすめのクラウド会計ソフトはこれ!(作成中)」です。
個人事業主の方においては、経理業務について専任の方を雇うことが珍しいことから、記帳の手間を省くことに重点を置いてご紹介しております。
次に、法人におすすめのクラウド会計ソフトは、「法人におすすめのクラウド会計ソフトはこれ!(作成中)」です。
法人の方におうては、すでに(もしくはいずれ)経理業務について専任の方を雇うことがありうる、また複雑な会計処理が発生しうることがあることに重点を置いてご紹介しております。
とくに法人の場合、規模が大きくなったタイミングにおいて、いかに負担無くバックオフィス業務をこなせる体制が築けるかがポイントとなります。
そのような意味でも、クラウド会計ソフトを導入する際に十分な検討が行われいてるべきではないでしょうか。
まとめ
かなりのボリュームとなってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
まとめとして、一言でいうと「クラウド会計ソフトは圧倒的に便利なので使わないと損!!」ということです。
長々と記事を書いておいてなんですが、結局この一言に尽きます。
そして、クラウド会計ソフトの中でも、現在の日本では数種類のクラウド会計ソフトがそれぞれの特色を打ち出しシェア争いをしている状況です。
よって、この記事を読まれている皆様におかれましては、各クラウド会計ソフトを比較検討し、皆様それぞれの状況に適したクラウド会計ソフトを選択されるのが良いのではないでしょうか。
この記事をはじめ本webサイトの記事が、皆様のバックオフィス業務効率化、事業発展の一助となれば幸いです。
監修者
大下航公認会計士税理士事務所代表。監査法人、会計事務所勤務、税理士法人パートナーを経て独立。国内外の幅広い業種・法人形態の会計税務に対応。ベンチャー企業への投資・支援業務を積極的に行っており、ITを利用した業務の効率化が得意。